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札幌地方裁判所 昭和48年(ヨ)445号 決定

債権者

有限会社ロペ

右代表者

宮崎美津江

右訴訟代理人

佐藤義雄

債務者

なかやま株式会社

右代表者

中山大五郎

右訴訟代理人

須藤敬二

主文

本件申請を却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

理由

一本件申請の要旨は、債権者は有限会社ロペの商号権者であるところ、債務者は、債権者と同一の営業につき、不正競争の目的をもつて、看板、広告、包装紙に(ROP〓)(ロペ)なる商号を表示して使用しているので、不正競争防止法一条一項、商法二〇条にもとづいて、右商号の使用禁止およびこれを表示した看板、衣料品、印刷物の執行官保管等を命ずるよう求める、というものである。

二そして、債務者が「ROP〓」および「ロペ」の名称を看板、広告、包装紙に表示して使用していることは、当事者間に争いがないが、債権者の商号が広く認識されていることないし債務者に不正競争の目的があつたことについては、いずれも、疎明があるとはいえない。すなわち、本件および関連事件(昭和四八年(ヨ)第四六〇号)の各記録によれば、「ロペ」については、申請外株式会社ジュンが婦人用被服のために商標権(昭和四一年一一月三〇日出願、同四二年一〇月一九日公告、同四三年五月一五日登録)を有し、また、「ROP〓」については、同会社が連合商標の出願をしその公告をえているもので、債務者は、昭和四六年三月ころから「ロペ」の商標を付した商品を扱うようになり、右商標の通常実施権を取得したうえ、商品の販売ならびに商品に関する広告、宣伝のために右商標を使用しているものであること、「ロペ」の商標を付した商品は、昭和四三年七月から札幌市内の他の商店で販売されその金額も年々上昇して来ており、右ジュン札幌支店の売上高は、昭和四四年には一七七三万余円、同四五年には五〇三八万余円に達していたこと(なお、全国では、昭和四三年八月から同四四年七月まで二億四〇〇〇万余円、同四四年八月から同四五年八月まで八億四八〇〇万余円の売上があつた)、一方、債権者が「ロペ」の商号登記をしたのは、会社設立と同時の昭和四五年八月一八日であつて、会社の規模も資本金一〇〇万円という小規模なものであるうえ、昭和四八年一一月に債務者の住所に近い札幌市の中心部に「ロペ本店」なる広告を出して新店舗を開設するまでは、豊平区内に店舗を有しそこで婦人衣衣料および婦人雑貨の販売をしていたにとどまるものであること(もつとも、債権者者代表者の作成した陳述書によれば、債権者は、ほかに岩見沢、江別などの各市立、国立病院の福利厚生課を通じて婦人衣料品の販売をしているもののようであるが、販売の方法や数量などについては明らかでない)の各事実が疎明され、これに反する資料はない。

以上の事実によれば、債権者の商号が、婦人用被服に関する分野において果してどの程度まで一般に認識されていたかが疑問であるだけでなく、債権者会社の設立時期、規模、所在地および債務者が「ロペ」の商標を使用するに至つた経緯からすれば、たとえ商法二〇条二項の規定を考慮にいれたとしても、債務者が債権者の商号の存在を知りつつその名声や信用を利用する意図をもつていたとみることは、とうていできないのである。

三したがつて、債権者の商号が不正競争防止法一条一項所定のごとく広く認識されているものであること、ないし、債務者が商法二〇条所定の不正競争の目的を有していることを理由とする本件の仮処分申請は、いずれも被保全権利の疎明を欠くものとして失当たるをまぬかれず、保証をもつて疎明に代えるのも相当でないのでこれを却下することとし、申請費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(太田豊)

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